私は、5歳でピアノを習い始めてから今まで、何人ものピアノや声楽、楽典の先生についてきました。
先生方の一言は重く、音楽に関する、関しないにかかわらずよく覚えています。
小学校の低学年についていたO先生。武蔵野音大の出身で声楽の専攻でしたが、生徒さんの数はピアノと歌で半々でした。
私は小学校の1年生がオイルショックの年で、紙がなくなるかもといわれて、裏の白い新聞広告を学校に持っていって、
ひらがなや数字の練習をしました。ちょうど高度成長期で経済は右肩上がりで、ピアノの生徒は黙っていてもどんどん増える時代でした。まだ年代的に、先生の数が少なかったことも大きいと思います。音楽教室の先生も、音大出身でない方も多くいらっしゃいました。
O先生は、小学校のクラスメートが紹介してくれました。母に連れられて初めて先生のうちに伺ったとき、私がオルガンで練習しているといったら突然怒り出し、「それはだめ、手が変なフォームになるから、すぐにでもアップライトピアノにしたほうがいい」とおっしゃるのです。
「いずれは買い換えたほうがいいだろう」と考えていた母ですが、当時はまだピアノといえばぜいたく品。それでも、先生の言葉ですぐにピアノを買ってくれました。
教える立場になり、O先生がアップライトを進めてくださったこと、私も今同じことを生徒さんにはお話しますし(言い方は違います) 感謝しています。
同時に、言ってはいけないこともO先生はおっしゃいました。ちょっとヒステリックな感じもあり、レッスン中は結構緊張していて、ソルフェージュを歌ってもあまり声が出せなかった私。
ある日のレッスンで
O先生は「あなたは歌はだめだから」と言い放ちました。
だから、声楽のテストの比重が高い学校は受けられない、と。
たぶん小学校2年生のことですが、私の記憶にはしっかり残りました。
そして音大受験の際に、自分がつきたい先生がいらっしゃる桐朋の短大は、その当時ピアノと声楽の試験の比重が100対100なので、あきらめようかずいぶん悩みました。
最終的には受験することにして、声楽家の春日先生の門をたたき、まったく初心者の私に本当に丁寧にレッスンしてくださいました。通常60分レッスンなのですが、夏休みは30分レッスンで週2回してくださいました。もちろん、レッスン料は変わらずに、です。
開放的な声楽のレッスンは私にはあい、短大の卒業試験では声楽のほうがピアノより成績が上でした。
もしあのまま、O先生の言葉どおり、声楽の比重の高い学校をあきらめていたらどうなったでしょうか?
私自身も、一言を発するときに、いつも気をつけねば・・・と思います。